womb to tomb

KLCで顕微授精の末に授かった、まだ見ぬわが子の成長記録と自分の体調変化、その他思うところ。

W27 Day5

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「妊娠糖尿病」との診断に伴い、暫くの間教育入院することになった。普通だと少なからずショックを受ける状況かもしれないが、耐糖能異常の自覚症状を持たない女性でも八人に一人が妊娠糖尿病を発症するとされる昨今、もともと機能性低血糖症候群を抱えここ数年その改善に努めてきた身としては、この状況はあーやっぱりねという感じでしかない。
実は妊娠糖尿病の確定診断にあたり、わたしは通常適用される75gブドウ糖負荷検査(OGTT)を受けることを、断固として拒否した。血糖コントロールが苦手で糖質の摂取割合を普段から低めにせざるを得ない自分の身体にとって、糖分を大量に注射するこの検査は負担が重すぎて、実施後の劇的な体調悪化が目に見えているからだ。四年前に同様の試験を受けた際の様に、検査中にブラックアウト(失神)するまではいかなくても、数日間は頭痛や吐気で動けなくなるだろうし、そもそも胎盤を通じてあなたにも悪影響があることは確実である。
という訳で、頑なにブドウ糖注射を断る患者を大層訝しがる医者を数週間に渡って説得し、検査の代わりに通常妊娠糖尿病と確定済みの患者だけが行う食前食後の血糖値自己測定を先にやらせてもらい、そのデータを見て診断することを了承してもらった。毎日の食事については別ブログ「本日のいただきます」に詳しいが、妊娠前後に関わらず普段からそれなりに気を配った内容ではある(但しつわりが最悪だった時期は除く)。しかし改めて血糖値を測ってみると、食後の数値が許容値の120をオーバーすることが散見された為、晴れて妊娠糖尿病と認定され、今回の入院に至ったのだ。
これで少なくともあなたを産むまでは、毎日食事を六分割して摂ると共に、血糖値を計測し続けることが義務化された。一見面倒な様だが、別にこれまでの食事内容を改める必要は無く(寧ろ現状をお褒め頂けて、栄養指導が無かった)、ましてやインスリンを打つ必要も無いと言われた以上、あなたの成育環境が良好に保てていることを日常的に可視化出来るのは逆にありがたい。教わることが何もなかった「教育」入院に五万円払うのは癪なものの、保険である程度カバー出来るし、ブドウ糖負荷試験を回避しつつ出産時に血糖値変動が起こるリスクを病院側に充分理解してもらえたのだから、必要経費だったと割り切ればいい。
そんな中唯一耐え難いのは、やはり病院食の味の酷さだろうか。ある程度配慮してくれているとはいえ、全般的にやたらと味付けが甘い、甘い、そして不味い。持て余した玄米の粒を、お茶碗の蓋の裏に「MAZUI」と並べてひとしきり眺めた後、ため息をつきつつ一粒ずつ口に運んだ。

W24 Day4

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裁縫に集中している間はつわりを忘れられることが分かって以来、布のおもちゃ作りに精を出していたのだが、どうせ何か縫うならばあなたの衣類にする方が実利的である。そう気付いたわたしは、仕事以外ではパソコンを弄ることも無くひたすら針仕事に打ち込むようになり、ここのところ一日一枚のペースで肌着やらツーウェイオールやらベストやらスタイやらミトンやらスリーパーやら、ありとあらゆるベビー服や小物を量産してきた。
裁縫に耽る傍に侍るのは、わたしが十歳の時に買ってもらった手芸セットに入っていた赤い裁ちばさみである。この道具は小学校中学年の自分にとってはかなり贅沢で良質な品で、当時から大層気に入っていた。あまりにもお気に入りだったので、将来子供が出来たらその子に受け継いで使ってもらおうと思い、自分の氏名をフルネームでは記名せず、敢えて苗字だけをマジックで書いたことを今でもよく憶えている。そう、今でこそ現実主義ゴリゴリのわたしだが、昔は自身が子供のくせにまだ見ぬ我が子を想う様な、案外ファンシーな女子だったのである(と同時に、結婚したら多くの女性が姓を変えることを知らない抜作でもあった)。
で、それから二十五年経ってようやく母になったわたしは、作業に没頭する内にだんだん縫うものがなくなってきてしまったので、ついに先週縫い物から編み物モードにシフトチェンジ。急ぐ必要は全くないが、お宮参り用のセレモニードレスと帽子と靴の一揃いを早くも作り終えてしまった。編み目は不揃いなものの、三点並べるとなかなかの達成感を味わえて満足である。
随分と忙しない母ではあるが、あなたはその影響を受けることなく、まだまだのんびりとお腹で過ごしていて欲しい。そしてどうか元気に産まれて、この御粗末な一張羅の中で微笑んではくれないだろうか。さらに願わくば、すくすくと大きくなった暁には一緒に手芸の時間を楽しもうではないか。もちろん布を裁つ時使うのは、母の旧姓が黒々と書かれた年代物のはさみである。

W20 Day5

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今回も相方同伴で、三回目の定期検診を受けてきた。ありがたいことに順調に成長を続けるあなたの推定体重は、426グラムで平均値より少し大きめとのこと。血糖調節機能が健全でない身としては、巨体児になり過ぎないか常に気掛かりなものの、スクスクと育ってくれているのは何よりの喜びである。現状分かる範囲で内臓の機能にも問題なく、口唇口蓋裂の心配もないそうだ。
そしてどうやら、あなたは女の子の可能性が極めて高いらしい。相方はそれを聞いた瞬間から、腕の中で微笑む愛らしい女児を想像して脳髄からトロけているが、同時にもうお嫁に出す日のことを想って淋しい、と憂いを帯びた表情で遠くを見ている。唯一の救いは、新婦側の父なので親族代表の挨拶を免れそうだということらしい。ワレメ画像ひとつでここまで心をかき乱されてしまう齢三十五の父親、大丈夫だろうか。
一方わたしはと言えば、あなたが現在体内に保有しているであろう原子卵胞、要するに卵子の元の数を思って大層羨ましく思っている。六ヶ月の女胎児が保有すると言われる卵子の数は、雌鶏もひれ伏すであろう驚愕の700万個。あと2〜3万個の在庫しか有していないジリ貧のわたしの目には、エコー画面越しのあなたはいかにも女盛りでフレッシュに見えてしまい、なんだかヤキモチすら焼いてしまう。ワレメ画像ひとつでここまで心を乱されてしまう齢三十五の母親、こちらも大丈夫だろうか。
と、娘の若さを僻む愚かな母ではあるが、未来への責任を今まで以上に感じているのもまた事実だ。あなたの中に既にタマゴがあるということは、即ちわたしの現在の食習慣が、あなたのみならずあなたの子にまで、何らかの影響を与えうるということ。自分が摂った栄養は、三世代分の命を支える大切な屋台骨となっているのだ。そう肝に銘じ直した結果、夜は心新たにせっせと玄米を食んだ。まだつわりが残っているせいで、決して美味しくは感じない。でもあなた方の細胞に、少しでも良質な成分を届けてあげたい。ウエウエしてとんこつラーメンを恋しく思いながらも、今は心からそう願って止まないのだ。
 

W18 Day3

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安定期に入って少し体調が良い時間が長くなってきた気がしたのも束の間、ここ数日つわりが勢力を増して舞い戻ってきており、一日中仮死状態な日が続いている。自分には一般的な女性の身体の変化傾向がなかなか合致しないことくらい重々承知していた筈なのだが、胎盤が完成する頃には様々な不快症状が一掃されるものと期待していただけに、今更ながらのつわり悪化は精神的に厳しい。で、やさぐれた心を癒すべく、起きている時は靴下でぬいぐるみをチクチク作ってやり過ごすのが最近の常だ。先週末の引きこもり時には、写真の様にペンギンが量産出来た。現在彼等は「チャン」「リン」「シャン」と仮称されているが、将来あなたがオモチャにして遊ぶ時が来たら、もっと良い名前をつけてあげてほしい。
名付けるといえば、お腹に語りかける時に名無しなのも淋しいので、相方と話して今のところの有力候補名で呼ぶ様にしている。男の子なら「ヨシツグ」、女の子なら「サクラコ」だ。ただ、あなたの性別がまだ判明していないので、どっちでもいける様に「ヨシツグサクラコ」と繋げて言うことが多い。苗字と名前みたいな響きでちょっと長いけれど、そのうちどちらかに一本化される予定だから、今はあまり気にしないで「ああ自分のことなのね」くらいに聞き流しておいてほしい。
ちなみにわたしが日曜の夜によく叫んでいる「ナオキ」というのは、あなたの候補名ではなく、夫婦でハマっている民放テレビドラマの主人公の名前に過ぎないので、勘違いしないでほしい。一昨日の晩、興奮してその名を絶叫していたら、お腹の底が妙にざわついた。「紛らわしくてごめん、あなたのことじゃないのよー」と当時は華麗にスルーしてしまったのだけれど、今思うとあれはあなたの動きを体感した初めての瞬間だったかもしれない。今朝も起きたらゲフゲフと共に若干のウネウネ。これが胎動ってやつか。

W16 Day5

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産院での二回目の定期検診に行ってきた。本日は、動くわが子をこの目で見たいと意気込む相方も有給を取って同伴である。産科の内診室に初めて入った彼は、あなたに会えるのを待ち侘びて大層ワクワクしていた。だがそれも束の間、生まれて初めて見た経膣エコー用のプローぺという器械を前に、その挿入時の痛さを勝手に想像し、顔面をお尻の穴の様に狭窄させてガクブルしだした。こちらはそのうち頭囲30cm以上の赤子を産み落とそうというのに、あの程度の直径の棒きれを前に縮み上がるとはなんと軟弱者なのか。

内診と腹部エコーの結果、あなたは元気に動いており、大きさは17週相当。心配だった浮腫みも無く、極めて順調に成長していることが分かった。中でも一番の吉報は、写真で見る限りあなたの鼻のラインが相方に酷似しているということである(上の写真では左側が頭部で、鼻を上に向けた横顔が写っている)。これはわたしが毎日相方の顔を触りながら、「こんな風な立体的な顔になるんですよー」とお腹に語りかけまくった成果に違いない。母体の触覚を通じた胎教効果の即効性、恐るべしではないか。

が、感動している嫁を他所に相方は、わたしの平べったい顔とあなたの横顔を交互に見比べながら、「赤ちゃんの顔が似ると困るから、お前はもう自分の顔は触らない方がいいんじゃないか」と言ってきた。ただの軟弱者かと思いきや、あなたのお父さんはなかなかの命知らずな豪の者でもある様だ。

W15 Day6

(汚い話です)
この一週間程、もっぱら大腸の不調に悩まされている。具体的に言うと、便秘と下痢がほぼ一日おきにやってくるのだ。ただ二つの相対する症状が発生するとはいえ、もともと食事の回数≒腸からの大きなお便りの回数な快腸人間の自分の便秘なんて、せいぜい24時間出なくてお腹張って痛いなー程度の、ライトな糞詰まりである。
問題なのは下りの方で、暫く冷静だった大腸中に突如激しい痛みがぶあああっと雪崩れてくるものだから、冷汗なんだか脂汗なんだかよく分からない体液を出しつつトイレに篭る。だが尿閉と同じく大きくなった子宮が邪魔になっている所為か、気張れど踏ん張れどなかなか便は出てこず、やっと捻れたと思ってもその量はほんのチョロリのドロリ、あるいはビチリ。物体は限りなく液状化しているくせに、何故かガッチリと強固に腸内に堰き止まるという、下痢と便秘が同時に起こってしまってもう「下秘」としか呼びようがない状態に陥っているのだ。
通常下痢による腹痛というのは排泄すれば大方治まるものだと思うが、こんな風に小出しにしか処理出来ない状況だと、腸内にまだ未排泄のブツが鎮座したままだから、当然お腹は疼いたままである。なので二時間程シクシクとした下腹部を抱え横たわっていると、次のビッグウェーブがどどーんと襲って来るので、便器にまたがりながら軟便意の波をなんとか捕まえて、再び気持ちの悪い汗をダラダラかいて奮闘した後また寝る。このループが日に四〜五回転するのだから、たまったもんじゃない。いや、腸にはうんと溜まってるんだけど、ほんと堪らない。
ただ不幸中の幸いと言うべきか、腸の痛みに気を取られている間に、胃のムカつきや吐き気は少しマシになってきた気がしている。今はちょうど妊娠15週と6日と23時間45分。あと十五分で夢の安定期に突入するのだし、これを機につわりの諸症状も一気にスカッと無くなったりしないだろうか。就寝前の切なる願い from 御不浄。

W14 Day4

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あれだけプライスレスだの宝物だの言って珍重していたマタニティマークが、気付いたらカバンから外れ行方知れずになっていたケアレスで薄情な妊婦。マークが無いと心細い時があるので、風疹の抗体検査の為通院がてら私鉄の駅で再びもらってきた。

ちなみにわたしは席を譲ってほしいとか歩く時気をつけてほしいとか、そういう魂胆で妊娠をアピールしたいのではない。利用目的はあくまで「膨よかなのにはのっぴきならない事情があるんです!」という正当な主張である。乱れた食生活と運動不足が祟って、既に体重が(悪)夢の50キロの大台に乗ってしまった。初めて見る数字を前にざわめく全身の脂肪細胞、その間をブヨブヨと駆け抜ける戦慄。マジかマジなのか。
だがこのショックで食べづわりが治まるかと思いきや、ますます空腹時の吐き気が加速するのだから、本当に困ったものだ。帰り道、思わず飛び込んでしまった十数年ぶりの回転寿し。苦い雲丹と水っぽいいくらを頬張ると、舌は不味い不味いと酷評しているのに、何故かおなかの中はコレだコレだと喝采しているのが分かる。二皿つまんで724円のお会計を済ませて店を出たら、ボンヤリとした気持ち悪さが残りつつもいつになく爽快な気分だった。相変わらず我ながら理解し難いこの食嗜好。